4 月 の ネ ル 物 語


 桜をはじめ明るい印象の花の多いなかで、ひっそりと馬酔木が咲いていました。
 早いもので今月はネルの三周忌になります。 静かに暮らすことの多かったネルに比べ、「ダヤン」している男の子のパスカルには振り回されることも多いこの頃です。

 今月もネルの遺稿を掲載します。 読んでやってください。


(猫舌)
 人間は、私たちネコが熱い食べ物を苦手だと言います。 確かに、あまり熱いものよりは、冷たいものの方が得意でアイスクリームなんかも家族と一緒に食べたりします。 でも、アイスクリームは美味しいから冷たくてもガマンして食べるので、本当は冷たいものもあまり好きではないのです。
 私たちの舌は人間よりも敏感で繊細に出来ているので、常温か少し温かい食べ物が一番良いのです。 水だって温かいのが好きです。 猫舌だからといって冷飯や冷水を与えられるのは間違っています。
 わたしは、家族が食事をするとき、好きなおかずだったら分けてもらうようにしています。 我が家では、家族とわたしの食べ物と食卓が別なのですが、お魚、鰹節、蒲鉾、はんぺん、生クリームなどは一緒にたべれるのです。
 家族は、わたしの好物を知っているはずですから、こそこと食事をするのではなく、わたしの食器にも同じものを入れてくれれば良いのですが声をかけてくれません。 おかげで、わたしが家族の食事が好物だと気づくのはいつも後手に回ってしまいます。 匂いや雰囲気で家族のおかずが美味しいものだと気づいた時は、まず誰の所に行くのが良いか様子を見て、ほとんどの場合はパパの所へ行きます。
 パパは最初のうち知らんぷりするのですが、わたしがじっと食卓を見上げていると緊張感に耐えられなくなって、少しおかずをくれるからです。
 パパが、わたし用の器におかずをくれる時はいつも少しだけで、それも熱いのをくれます。 熱いのをくれるのは、わたしが熱くて食べられずに、それ以上欲しがらないと考えているからに決まっています。 わたしはバカではありませんから、熱くても頑張って食べます。 頑張って早く食べて次を催促しなければ、パパが先に食べ終わってしまうからです。 熱いのをガマンして、何度も噛んでやけどをしないように注意して食べるのです。
 ママやタカシには催促しません。 ママはいつも、わたしを無視して食事を続けます。 タカシがくれた試しは、まずありません。
 ある日、ママの友だちのご主人がロシアに行ったとかで、おみやげに「キャビア」が届きました。 わたしは、「キャビア」なんて知りませんでしたが、何とも美味しそうな匂いがするのでパパの食卓の下へ行きました。 見ると、ちょうどパパが「キャビア」をパンの切れ端にほんの少しずつ取り分けようとしています。
 わたしは、一生のうちにどうしても「キャビア」というものを食べて見たくてパパをじっと見上げましたが、その日に限って無視です。 雰囲気が変なので、ニャーと啼いてみましたが全然だめです。 いつになくパパの表情も硬いのです。 仕方がないので、ママとタカシの間へ行き、一生懸命お願いしてみると、熱意が通じたのかママとタカシが自分たちのキャビアをほんの僅かくれようとしました。 その肝心な時、パパが横槍を入れたのです。 パパは「ネルなんかに大切なキャビアをやることはない!」というのです。 そして「キャビアのとれるロシアでも貧しくてキャビアを食べれない人がたくさんいるのに、猫なんかにやるものではない!」というのです。
 わたしは、どんなに美味しいものかほんのちょっとだけ味がわかれば良いと思ったのです。 ママだってタカシだって、くれようとしたのはホンの耳かきの先ぐらいです。 結局、パパの強硬な反対のおかげで、わたしは「キャビア」を食べることが出来ませんでした。
 ロシアの人が食べられないのがいけないなら、日本人のパパがたべるのもおかしいはずです。  パパは、少ししかないキャビアを耳かきの先ほども、わたしにくれるのがもったいないと思ったに決まっています。 わたしは、パパは本当はケチなのだと思いました。



次の頁
ネルの小屋ばっくなんばー
今月のネル物語
ひょうしのページ