1 2 月 の ネ ル 物 語

 先日、我が家のあるマンションに樅の木が植えられ、12月12日には小学生のブラスバンド演奏とともにツリーの点灯式が行われました。

さすがに12月。 初雪が降り、冬の渡り鳥を見かけるこの頃です。 以前、ネルが捕まえた幼鳥は無事に育ち、蕨へ帰って来たでしょうか?
今月もネルの遺稿を掲載します。 読んでやってください。



(ツグミ)
 家族はいつものように朝御飯を食べています。   早起きのわたしは、みんなよりも先に朝食をすませました。   家族のところへ行っても何ももらえそうにないので退屈に思っていると、ベランダに鳥の気配を感じます。
わたしは右手で戸を開けることができるので、体が通るだけ少しサッシを開けてベランダへ出ました。
見ると、雀の倍ぐらいの大きさの灰色の鳥が手すりにとまっています。

 ベランダへ雀が来るたびに捕まえようとするのですが、なかなか難しいものです。   わたしはベランダから落ちるといけないので、飛びかかる時に十分な勢いをつけられないのです。  狭い我が家では十分な助走もつけられません。   決してわたしの運動神経が劣っているなどと言うわけではありません!   この点、一戸建てに住むネコは幸せです。
 「今度もだめかも知れない。」と思いましたが、わたしのテリトリーを鳥に闊歩されて黙っているわけにはゆきません。

 いつものようにそっと近づいてみます。  期待と緊張と武者震いで体が固くなりそうですが、じっとこらえて姿勢を低くします。  鳥がわたしに気づく前の一瞬をとらえて、ジャンプです。  体が中に浮いた瞬間「しめた!」と思いました。  灰色の鳥はわたしに気づいていません。 あと10cmで鳥に手が届きます。

 わたしの手が鳥に触れた瞬間、飛び上がる構えのできていない鳥は、わたしの勢いに押されてベランダの内側に落ちました。
「しまった!」と思いました。 わたしの爪は切られているのです。  ネコの鋭い爪は鳥をうまくキャッチできるのですが、わたしの場合、家具を傷めるという理由でパパが定期的に爪を切ってしまうのです。
 しかし、まだ大丈夫です。 鳥はベランダに落ちて、すぐに飛ぶ体制にはありません。
ジャンプからオリンピックメダリストなみの敏捷さで着地したわたしは、猛然と鳥に向かいます。 鳥はうろたえて走りだしました。
こうなれば陸の王者ネコ族の勝ちです。  わたしは、冷静な狩猟者の判断で失敗を反省し、手は使わずに口で襲いかかりました。  鳥は逃げ回りますが、すでにわたしの敵ではありません。  隅に追いつめると横から押さえつけ、口にくわえて捕まえることができました。

わたしの、勝利です。 家族に獲物を見せて自慢しなければなりません!
真っ先にママに見せて誉められ、パパに見せて感心させ、タカシにはわたしがいかに優秀なハンターであるか思い知らせてやらなくてはいけません。
急がなくてはいけません。 早くしないと、パパとタカシが外出してしまいます!
わたしは、鳥をくわえたまま急いで部屋に戻りました。

そのときです。 ベランダで音がするのを怪しんで、わたしを見ていたママが「ネルが灰色の何か変なものを捕まえて口にくわえている!」と大声で騒ぎ出しました。 ママは鳥とネズミが何よりも恐いのです。
 洗面所にいたパパが、それを聞いて転がるように飛んできました。 パパはわたしを見るや否や「ネル!」と怒鳴りつけ、わたしを捕まえようとします。

わが家のみんなは間違っています。 せっかくわたしが獲物を捕ったのに誉めるどころか、ひどい剣幕で怒鳴るのは間違っています。
ここで獲物を取り上げられてはたまりません。 わたしは逃げようとしますが、くわえている鳥があばれて思うように動けません。
部屋を逃げ回ったあげく、仕方なしにくわえていた鳥を放してしまいました。
わたしは、凶暴なパパに叩かれる危険を感じ、部屋の隅に逃げて様子を見ました。

パパは、わたしの獲物を拾い上げると「ツグミの幼鳥だ!」といいました。 ママは、鳥を恐れて「どうにかしてよ!」と言います。 パパは、「どうやって巣に帰そうか? うちで野鳥を育てるなんて難しいよ。 ネルの奴もいるし・・・・」というと、鳥を包んだ手のひらを大きく開きました。
鳥は小さく震えていましたが、徐々に落ち着くと羽を広げました。 わたしの唾液で濡れた羽を震わせています。
「翼に怪我をしていなければ飛べるかも知れない。」とパパが言いました。 「ひな鳥は骨格も弱いから、大丈夫かどうか良く調べてやらないといけない。」などと”わたしの鳥”について勝手なことを話しています。
わたしが捕った、”わたしの鳥”です! 「ハイエナみたいな奴らだ!」と思いました。
「獲物の横取りは許されない!」とも思いましたが、どうすることもできません。
 パパはしばらく羽ばたかせて様子を見た後、”わたしの鳥”をベランダへもってゆき、手すりに止まらせました。

 親鳥と思われるツグミの成鳥が、手招きするようにベランダの近くを飛び回るのをみて、 ”わたしの鳥”は何度か羽ばたきを繰り返した後、突然、手すりからこぼれ落ちるように飛び降り、 一旦降下して速度をつけながら元の高さに舞い上がると、我が家の向かいにある小さな林の中へ消えてゆきました。

わたしは、”わたしの鳥”をパパに取り上げられたあと、部屋の隅からじっと一部始終を見つめていました。  わたしの一生に、もう二度とこんなチャンスは訪れないかも知れません。
ママは、大嫌いな鳥がでていったので「パパのいるときでよかった!」と一応は喜んでいます。
パパは「会社に遅れてしまった!」と大慌てで出て行きます。
ママは、今のところ鳥がいなくなってニコニコしていますが、あとでご機嫌が悪くなって叱られるかも知れません。 「もうネルなんかにさわりたくない。」などと言っているからです。
  今日はほとぼりが冷めるまで、ママの近くに寄らないよう気をつけなくてはいけません。



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